株式会社黒姫和漢薬研究所様(薬草茶メーカー/長野県)
https://www.kwk-kurohime.com/

黒姫和漢薬、狩野社長、狩野森様

  

<受講コース>
FM-Camp スタンダードコース・初心者向けパッケージ(受講期間:5日間✕2名)

長野県の北端、四季折々の自然豊かな信濃町に位置し、「自然・健康・環境」をテーマに商品開発・事業展開するとともに、消費者と地域社会とのネットワークを通じて人々の心身の健康をめざしている株式会社黒姫和漢薬研究所。FM-Campには2代目である現代表取締役社長の狩野 土(はかる)さんと、長男で企画室・SDGs推進担当の狩野 森(しん)さんが受講されました。

Q.黒姫和漢薬研究所の事業内容を教えてください。

土さん:
当社はもともと野草、薬草を健康生活に生かすことを生業としてきた野草健康茶のパイオニアで、初代である父が昭和22(1947)年に創業し、私は2代目にあたります。今ではさまざまなメーカーからブレンド茶のペットボトル飲料が販売されていますが、当社が原料のブレンドに携わったものもあります。

初代は東京の深川で生まれ、大学在学中に太平洋戦争の学徒出陣で陸軍に入隊し、薬草などを学びました。終戦後は食糧難のなか、自分が学んできたものを生かしたいとの気持ちで黒姫高原の原野に開拓者として入植し、決して豊かな土地ではなく薬も手に入りづらいこの地域で、身近な薬草・野草を使って、生きる糧となり誇りとなる仕事をつくろうと和漢薬事業を創業しました。

創業当時から体の健康だけでなく心の健康もお客様に届けることをミッションとしていますが、さらに最近は積極的な健康寿命を延ばし、尊厳ある生き方を支える新事業プラン「WECプラン(WELLNESS・ENVIRONMENT・COMMUNITY)」を掲げています。高齢者の健康と環境、地域の観光事業への貢献です。そのためには従業員一人当たりの生産性の向上が大切になります。労働装備率を考えながらFileMakerを活用し、iPadも駆使しつつ業務改善に取り組んでいきたいと考えています。

黒姫和漢薬研究所

 

Q.受講前の課題や悩みは何でしたか。

森さん:
コロナ禍の2020年は多くの企業が1年を通して大変でしたが、当社も例外なく、特に前半は工場もフル稼働ができない状況でした。そうしたなか、従業員が交代で出勤した際「あの人でないとわからない」と、仕事が属人化していた状況が鮮明に見えたのです。全員が出勤していた今までは社内ですぐに聞けたため、見えていなかった問題でした。さらに後半になり、肌寒くなってきてお茶が繁忙期を迎えたことに加え、免疫が大事であるとの世の中の流れを受けて野草健康茶の注目が高まり、工場の生産もフル稼働になりましたが、当社では自社商品以外の受託製造を150種類ほど作っているため、忙しくなるほど生産工程に入ったときに、その商品だけに使用する資材や原料がないという状況に陥ったのです。やはりここでも人のキャパシティの限界を感じ、業務を見える化しないといけないと感じました。これまで在庫管理は手作業で記録してExcelに入力するというアナログ形式でしたが、「WECプラン」という目標を達成していくためには、今システム化しないといけないと感じたのです。

同じ頃、信濃町でU-NEXUSの上野敏良社長による講演会があり、「経営をデザインする」というデザイン思考のお話をお聴きしました。実は上野社長の講演会への参加は4回目で、以前からFileMakerの存在は知っていたものの具体的な使い方はわかっていませんでしたが、その講演を機に翌月に上野社長にお電話し、同社のITコンサルタントである横田志幸さんに当社にお越しいただいて、現状の課題をいろいろとお話しました。

Q.受講にあたり何が決め手になりましたか。

土さん:
私も上野社長の講演を息子と聴き、まさに経営をデザインすることで従業員が誰でも経営に参加できたり仕事で主人公になれる環境が大事だと思ったのです。そうしたなかで息子からFM-Campの提案を受け、会社内のいろいろな仕組みを属人的な仕事にするのではなく誰でもできるように平準化したいとの発想を聞いて「いいね」と思いましたし、彼のいうことだからやってみようとも思いました。

また、当社は今でもデータベースソフト「マイツール(Mytool)」を使って戦略会計に取り組んでいますが、これは約30年前に、社内の請求書発行に特化した情報集積のための基幹ソフトのデータを使って私が設計したものです。このように、社内に眠っている宝(データ)を整理して財産として生かす経験を、FM-Campを通じて再びつかみ、「WECプラン」に生かそうと考えました。
私以外の社員に参加してもらってもよかったものの、私は自分でいうのもおこがましいのですが、社内でも頭は相当柔らかく、体力もありますし、チャレンジ精神もある。私しかいないと思ったのもあります。

また、我々はお茶メーカーのなかで縁の下の力持ちでしたが、隠れた存在ではなく「薬草健康茶といったら黒姫」という業界ナンバーワンのポジションをもう一度取ってリーディングカンパニーにならないといけないと明確に意識したことも決め手でした。

森さん:
工場の生産管理システムの構築だけならU-NEXUSさんにお願いしてソフトを組み立ててもらう方法も考えられましたが、今まで当社が蓄積してきたものを引き継ぐためにも、FM-Campに参加して自分自身で勉強したい思いがありました。

狩野社長、狩野森さん

 

Q.親子でのご参加は初めてです。その動機は?

土さん:
参加者は社長と部下でも、違う部門同士でもよく、さまざまな組み合わせがあります。今回、親子で参加したのは、中小企業として世代交代を見据えていたことと、当社が今もマイツールを使っているのは、私と初代である父とで天野栄夫先生の「ゼロ戦とマイツール」という講演を聴いたことがきっかけだったことにあります。天野先生は太平洋戦争の学徒出陣でゼロ戦のパイロットを経験し、戦略会計に通じていました。そのフィロソフィー(哲学)に共感し、当時27歳だった私は全社員に1台ずつコンピュータを与え、私自身は戦略会計を深めていったという経緯があります。マイツールに惚れ込み、今では国内で有数のマイツール使いになりました。

また、現在は社内のいろいろなものが私に属人化されていますが、その状況を離れていかないといけません。FileMakerを提供するClaris社は多くの企業とパートナー契約を結んで展開している発想が面白くて素晴らしく、アプリの仕組みが状況によって際限なく作れます。成長企業はまさにそうであるべきだと考え、我々はとにかくストレスフリーな業務形態をつくりたいと思っていたことから、そういう意味では社長が参加したほうがよいと考えました。

さらに、息子には高校卒業直後に九州のデパートでの催事を手伝ってもらい、当時、当社がもっとも苦戦した時期を乗り越えました。その時点で親子ではなく強力なサポーターとなったのです。中小企業は最後はどう次世代にバトンを渡せるかのリレーションが大切という理由からも私が参加しました。

森さん:
当初は私ともうひとり別の社員や、私ひとりでの参加という話もありましたが、横田さんからご説明いただいたなかでFileMakerは汎用性があって他のソフトとの連携ができるとわかり、社長が今独自で使っているマイツールというソフトはすでに開発がストップしているので、社長が取り組んできたものをリレーションして運用していくためにも、社長と参加することになりました。

世の中、親子での参加は難しいところがあるかもしれませんが、私自身は父とスキーやサイクリングに出かけたり、長野県倫理法人会に一緒に参加したりと、共通の趣味や仕事以外の交流があったので、親子で参加するハードルは低かったといえます。

なお、私はMac、父はWindowsでの参加というのはあまりないパターンだったそうですが、普段から使い慣れているもので参加しました。

Q.受講された感想を教えてください。

土さん:
私は息子と34歳年が離れていますが、親子であり同志でもあるので、ふたりで参加したことでよい刺激を受けました。なかでも面白いと思ったのは、リレーションを引っ張って組み立てる体験です。それに「自分たちでもできる」というブレークスルーのために参加したと思っています。ゼロベースでやっていたらすごく苦労したでしょう。これは、つまり上野さんの座右の銘である「魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ」という考えが大事だということです。状況が変化する川では一回教わっただけでは魚は釣れませんが、魚の引きの感覚は体験を通してわかります。こうした体験もなく、本を読んだだけでは釣り方はわかりません。FM-Campもキーボードの感覚やものの学び方、仕組みづくりの体験を得られたことは大きかったと感じています。その体験があるから、うまくいかなかったときももう一回テキストを読んでどこが問題だったのかがわかるのが重要なところです。FM-Campは私にとってはシステム構築をモチベートしていくための動機づけになりました。

また、私はマイツールになくてFileMakerにあるものは何かと考えながら参加していましたが、共感したのが「共有と排除」という言葉です。情報は共有すべきものであると同時に、ちゃんとプロテクトしないといけないものもあり、その概念が大事だということです。マイツールはプロテクトが弱いのに対し、FileMakerは守るべきものとみんなに知らしめるもの、両方をもっています。その点に共感して、今一生懸命取り組んでいます。

さらに、中小企業の強みは機動力であり、自分たちで運用設計できるソフトウェアは武器になります。私はかつてマイツールでソフトを作ることに本当に苦労しましたが、物事は苦労の体験こそ大事であり、私はマイツールを武器にいろいろな企業と折衝し、自分のほとんどの経営者人生を支えてくることができました。同じようにFileMakerは今後、必ず息子、狩野 森の武器になります。今は苦しんでも徹底的に修得してほしいと思っています。

森さん:
私が受講中にうれしかったのは、3~4日目に画面を見ながらスクリプトを書き写しても何の反応も起こらなかったときに、何回も見直してようやく1カ所間違いを見つけて実装できた瞬間です。普段はプログラマーとは真逆の営業の仕事をしていますが、自分でもプログラマーになれた気がして今までにないうれしさがありました。FileMakerのよいところは、このように現場の当事者がプログラマーになれる点です。取り組んでみると難しいのですが、誰でもできるように考えられていて、今までにない体験ができたのは喜びでした。

一方で、最初の3日間はアプリケーションを作っていくための下準備という感覚でしたが、実はそこに全てが隠れていたのです。そこに全く気づいておらず、全容が見えないなかで、自分で考えずにいわれた通りに取り組んでいたので、FM-Campが終わった今、いざ自社のシステムを作ろうすると、最初の頃に受講したテーブル設定とリレーションシップの概念につまづいて苦戦しています。FileMakerの仕組み上、最初に設計図を描いて、あとから実装していくかたちになるので、全部が終わって全体像が把握できた段階でもう1回復習が必要だと感じています。

ただ、設計図が描ける、全体像が描けるようになった点は、FM-Campに参加して意味があったと感じています。またFileMakerでひとつの課題に焦点を合わせて解決すると、今まで問題として浮かび上がってこなかったものも見えてきて解決もできそうだという糸口が見えたので、まずはひとつずつ課題を解決していくことでよりよい仕組みづくりができるようになると感じています。

狩野社長、狩野森さん

 

 

Q.今後の展望を教えてください。

森さん:
実はFM-Camp後に新しい部署に配属され、営業からチラシ作り、システム作りなど、やることが多岐に渡ってしまったので、これから整理していきますが、まずはFileMakerで製品仕様書の作成をしたいと考えています。今までは紙での出力を前提にしていたのでExcelを使っていましたが、原価や包装資材情報、ライン情報などを全てテーブルで起こす予定です。今はちょっと苦戦していますが、やはり手書きのものを大きな時間を割いてExcelに入力するのはデザイン思考ではなく不便です。現場の人間から見て使いやすいものを開発することで、それが社風となってユーザー目線の商品開発ができるようになると考えています。作り手の私たちから変わっていかないと商品も変わりません。そして、FileMakerの導入をきっかけに、しっかりとデザイン思考ができる社風にしていきたいのがもうひとつの目標です。

ただ、やはり業務がわかっていないとよいものが作れないという意味では、今後FileMakerをどうやって社内に落とし込むかが課題です。現在、社長は有給休暇の申請システム作りに取り組んでいますが、そのシステムを社員が業務のなかで実際に使って便利だと感じてもらうことで開発していけたらいいなと思います。とはいえ、やはり自分たちの力だけでは難しいところもありますし、これから判断が難しい時代になります。近くにいるU-NEXUSさんとはよいご縁ができたため、お手伝いいただきながら自分たちの強みをもった企業になりたいと考えています。

土さん:
企業は社員の年5日以上の有給休暇の取得が義務化されていますが、それを単なる義務とするのではなく、従業員の勤務日をビジュアル化することで勤務体制の仕組みがわかるようにしたいと思い、今、有給休暇の申請システム作りに取り組んでいます。さらにラジオ体操のハンコのように自分の出勤を見える化することで、モチベーションの向上にもつなげたいと考えています。そのシステムは公開していただき、多くの人に使っていただくかたちも問題ありません。

さらに今回、この機会に就業規則の見直しもかけて賃金制度まで改めました。以前に作った社員の評価制度はうまく運用されておらず属人的でしたが、システマチックにするために仕組みづくりまでもっていく予定です。そこからより踏み込んで、現在は高齢者雇用による土日の工場操業を考えていることから、工場のシフト管理の仕組みづくりも考えています。そうなると社内の機械の稼働率も見えてくるため、FileMakerのもっているデータベースのリレーションの組み合わせによっていかようにもシステムが作れます。FileMakerは絵を描くようにリレーションの図を描いていくので、次に何ができるかイメージしやすいのも魅力です。

有休取得のシステムのほかに作ろうと考えているのは、掃除リストや機械の点検といった社内点検システムです。思いついたときにチェックするのではなく、チェーンの張りやオイル給油など定期的にプログラムしておくことで社内のプラトー(停滞)タイムを減らし、生産性を高めることが大事だと考えています。また、社内在庫も原料の名前だけ書いてあってもわかりませんが、画像も使うことで在庫を探している人のモチベーションを下げず、ストレスフリーな業務形態をつくれます。従業員たちがiPadを使わざるを得ない仕組みづくりで、生産管理に発展させていくことがめざすところです。FileMakerによって従業員の自己成長と企業成長を追うことができる仕組みに変化させようと考えています。

また、経営は時系列を追って傾向を把握することが大切ですが、Excelはシート管理なので時系列でデータを追うことができず、問題点が見えません。そこで1年後、今回の改善策がどのように業務改善につながっていくか、過去の傾向を見ながら追ったときに見えてくるものあると思っています。そのうえで、今はまだFileMakerの初心者ですが、いずれ「FileMakerを使っている黒姫はすごいね」といわれるくらいまで開発を高めていきたいと考えています。

金、人、モノ、情報の複眼的な視点をもちながら、従業員を3倍の規模にすることで100万人のユーザーと100億円の売り上げをめざし、100年企業に向けてしっかりと次の世代にリレーションして社会の役に立てる存在として企業を存続させていくこと。それがこれからの展望です。自分たちのマインドをしっかり広げていくことで会社がよりよくなれば、次の100年も見えてくるはずです。